(序)
ことばの羅列が物語だというならば
多分それは物語なんだろう
時間の羅列が想い出だというのなら
…きっとそれは…想い出というやつなのだろう…
(1)
お祭りの夕べ
「ねえ、きみひとり?」
呼び止められたとき、ぼくは独りだった。
商店街を抜ける旧国道の臨時の歩行者天国は、人の流れが埋め尽くす。
独り流される人の波。
ポケットの中の小遣いをぎゅっと握りしめながら人の波を呆然と眺めていた。
林檎飴だって、綿菓子だって、焼きそばだって、たこ焼きだって、金魚すくいだってあるのに…
人の波を外側から眺めている、そのときのぼくがそこにいた。
「ねえ、…きみひとり?」
こえがした…声がした…そう、声がする。
かけられた声に振り向くと、ぼくと同じくらいで紺色の野球帽の子。
帽子のマークは「W」の横浜大洋ホエールズ。半袖のTシャツ、半ズボン。
「…ねえ」
そいつは、再びぼくに問いかける。
「…ひとりだったら…」
「ひとりだったら?」…鸚鵡返し。
「…どうだってんだよ」
ぼくはわざとぶっきらぼうにいう。
「おいでよ!」
臆面もなくいうそいつの野球帽の下の瞳は微笑んでいる。
被っている野球帽のつばを後ろに回すと、にっこり笑って僕の手を取った。
引っ張られたぼくの右手は、自然と躰ごと人の波に誘った。
「おい…まてよ」
「せっかくのお祭りなんだから、」そいつはそう言うと「ね!」と微笑んだ。
…祭りの夕べは始まったばかりだった。…