〜ラブレター〜
え…えっと…
「…なに?」
あ、あの…これ
私は、ホームルームで配られたプリントを彼に手渡した。
でも、彼が『もしかして、ラブレター』などと言うものだから本当に渡したかった物は手渡せなかった。
……それは本当にラブレターだったのだから……。
姉の杏だったらこんな風に躊躇ったりはしないだろう。姉は躊躇う前に行動するか、口を滑らせる。今更ながら姉の性格が羨ましい。双子でどうしてこうも違うものだろう。
翌日……も渡せなかった。
……そんな日が一週間ほど続いた頃
その晩。やっぱり渡せなかったラブレターを見ながら溜息をついていると、入浴を終えた姉が
トレーナーにスウェットというラフな恰好で私の部屋に入って来た。私は、慌ててその封筒を引き出しに押し込んだが、しっかりとそれを見られていた。
「なによ、水くさいじゃない」
とそう言って私に近寄ると、
「隠したって、朋也に渡すラブレターだって言うのはお見通し」
そう言ってにっこり笑い、後ろから私の肩に両腕をだらんとかけてもたれ掛かり、耳元で囁いた。
「協力して上げても良いわよ」
「……え?」
私は自分の耳を疑った。
何故なら、姉もまた彼のことを好きなはずだから。
「なんでって顔してるわね。別に諦めたって訳じゃないし……。あんた見てると、何となく朋也には、あたしじゃなくって椋の方がお似合いのようにみえるのよね。悔しいけど」
くすっと笑った姉。
……意外な言葉だった。
だって、私も、自分より姉の方が彼とお似合いだなんて考えていたんだから。
やっぱり、似たもの同士なのかもしれない。いつの間にか、さっきとはまるで正反対のことを考えていた。
「それでいいの……?」
「あんたは気にしなくってもいいのよ。悪いようにはしないから」
そう言って、一人芝居を演じるように、私の部屋から出ていった。
翌日……。
新たに書いた手紙を姉に託した。
……私は卑怯者……だ。
自分から、道化になって舞台から降りていく姉は、その時何を感じていたんだろうか……。
それよりも、自分でこの想いを伝えられなかった蟠りは、未だに私の中に消えずに残っている。
そして、付き合い始めて最初の誕生日。
思い切って彼にその話を切りだしてみた。
「なんだそんなことか」
彼が大したこと無いような言い方をしたのがなんだか悔しかった。
「そんなことって……それじゃまるで、今まで悩んできた私が馬鹿みたいじゃないですか。朋也くんは私のこと嫌いなんですか」
悔しかったから、少しだけ彼を困らせることを言って拗ねて見せる。彼は、意図したとおり困った顔をすると
「……嫌いなわけねえだろ」
そういってポケットからペンギン印のチューイングガムを取り出して手持ちぶさたに一枚手に取った。
「黙っててもそれとなく察するのが彼氏の仕事だろ。大体、椋も杏に遠慮しすぎ。そんなことされても杏も喜ばねえし、俺だって嫌だ。それじゃ誰も幸せじゃねえだろ?」
私を見据えてそう言うと、ポケットにガムを押し込むと今度は別の物を取り出した。小さな包みだった。
「それに、椋のことが嫌いだったら一緒に歩かないし、こんなもんも用意しない」
私は、彼から小さな包みを受け取った。開けてくれと言われたので、その場でリボンと包装紙を丁寧に解いた。中から出てきたのは、タロットカードだった。
「あ……あの朋也くん。前にも貰ったんですけど……」
「あれは、実は杏が買ったヤツなんだ。今度のは純粋に俺から。いらないなら、俺が使うけど?」
「あ……ありがとう。……私からも受け取ってもらえますか」
今受け取ったプレゼントをしばらく彼に預け、背負っていた小型のデイパックの中のポーチから、取りだした物。それは、あの日渡せなかった最初のラブレター。
先ほどのタロットと交換でそれ受け取った彼は、
「普通は、順番逆だろ」
とそう言って苦笑い。
「いいんですよ。それで」
何か言いたそうな彼のことばは、少しだけ背伸びをした私の不意打ちのキスによって封じられる。
「行きますよ」
見上げた蒼穹数千フィートには描かれたF-15Jが飛行機雲を曳航していった……
〜了〜