澪とドライブ【特別編】
(姫川琴音編)
(1)
23:31 kotoneさんが入室されました
23:31 shioriさんが入室されました
23:31 mio>お弁当はお寿司がいいの〜♪
23:32 mio>こんばんわなの〜♪>ことねさん、しおりさん
23:33 shiori>なんだか楽しそうですね(笑)
23:33 kotone>こんばんは、みおさんご機嫌ですね。お花見にはまだちょっと早いですけど、どこかにお出かけですか?
23:34 mio>こんどドライブなの〜♪
23:36 kotone>いいですねえ。それでは、あかねさんやしいこさんもご一緒なんですか?
23:27 shiiko>そのことで一寸、話し合ってたの。
23:27 rumiさんが入室されました
23:29 mio>るみさんおひさしぶりなの〜♪
23:29 rumi>おひさしぶりー!
23:30 shiiko>ちょうど良いところに(にやそ)
23:23 rumi>えっ!なになに…?
(2)
いつもの時間、いつもの場所で…と言ってもネット上のチャットの事…開かれる女の子だけの密談大会。
わたしが、それこそいつものように場の中に入っていくと、みおさんが楽しそうにドライブのことを教えてくれた。彼…といっても本当はあかねさんと同棲中の彼、何だそうだけど…とドライブに行くらしい。そう言えば、この間は、免許を取り立てだって楽しそうに話していたっけ。
「…えーと、それでどうするんですか、っと」
キーボードのアルファベットを打ちながら呟く。端から見ると、何となくかもしれないけど…。
今日のテーマは、ドライブでその彼…浩平さんというらしい…に、対して一寸した悪戯を仕掛けると言う主旨の物だった。
首謀者はしいこさん。
内容はこう。司令をだすしいこさん。みおさんは予め、もしくは特定の場所でその司令を受け取る。その司令の内容は…色仕掛けで浩平さんに迫ると言う物だった。
他愛もない悪戯…と言ってしまえばそれまでなんだけれど…、本来の彼女のあかねさんにしていみれば全く面白いくはない。わたしだって、あかりさんに対して多少の焼き餅は焼くんだから、それを思うとかなり悪趣味な悪戯だと思う。
あかねさんは当然、『しいこ、悪趣味です』とか『…嫌です』とあからさまに拒絶しているが、しいこさんは全く意に介する気配がない。
いつも思うんだけど、しいこさんて長岡さんと性格が似ている…。機関車みたいに強引に話を引っ張っていくところが、なんとなく…。そういえば、長岡さんもこのチャットのメンバーなんだけれど…、今日は未だ見ていない。…今来られても、面白がって話を引っかき回すだけなんだけど…。
『やっぱり、一寸悪趣味です』
話を聞き流していたしおりさんも、流石に度が過ぎると思ったんだろう。
「…そうですね、甘えるぐらいはいいとしてもっ…」
気が付くと、また呟きながら打ち込んでいた。
話が流石に不味い方向に向いてきたのだ。
『そうよね…折原君に一泡吹かせるっていってもね…』
それまで乗り気だったるみさんも躊躇っている。
『いくら何でも非常識ですよ。そんな事言うさせる人嫌いです』
『あかねやしおりさんは兎も角…みおちゃんはどうなの?』
『兎も角ってなんです!』『…』
それで、当のみおさんは…というと
『それでもいいの。いざとなったら覚悟は出来てるの』
どうやらみおさんの思いも本気だったようだ。こうなった女の子の本気は、手に負えないのはわたし自身の頑固さで分かっている。浩之さんや森本さんに『琴音ちゃん(姫川さん)て、案外頑固だから(な)』と言われるくらい…。
「…あの、あかねさん…」
あっ、またわたし呟いてる。
(3)
「もしもし、里村さんのお宅ですか」
『…折原ですけど』
電話の向こうの男性はそう言った。
「えっ…間違えました…すみません」
ガチャッ!
慌てて受話器を置いてしまった。…でも。
いま、「折原」って…。
そう言えば、あかねさんと同棲してる彼って折原浩平さんていっていた。なんか、悪いことしたかも知れない。思い直してもう一度公衆電話の受話器を取る。
「もしもし、”折原”さんのお宅ですか…」
『そうだけど…茜に用事ですか』
「はい。あ、もしかして折原浩平さんですか」
自分の名前を知っていて驚いているようだった。
「”姫川”と申します。お噂はかねがね…」
『茜が噂しているのか…そんなはずはないよな』
すみません、実はその茜さんから聞いちゃったんです。
「いえ、詩子さんから…」
『…柚木か…』
とっさの誤魔化しに折原さんはどうやら納得してくれたらしい。
「はい…楽しい方だそうですね」
『柚木ほどは楽しくないぞ…』
「その”柚木”さんとも関係ある事なんですけど…」
『なんだ』
少し興味を持ってくらたみたいだった。
「今日は普段との違いには要注意ですよ」
『意味深なことを言うなあ…』
「予知能力です」
予知能力があったら、本当にどれだけ良かったことか…。今日ばかりはそう思った。
「冗談ですよ。でも、本当に未来を予知できたら便利なんですけどね」
わたしの使えるのは念動力…。ごめんなさい折原さん。
『やっぱり意味深なことを言うな…』
冗談ととったらしく、折原さんは上手く誤解してくれた。あとは、みおさんとのデート中、少しでもこれから私の言うことを思い出してくれれば…。
『茜に用事だったな…。携帯にかければよかったのに』
「いえ、折原さんとも話してみたかったんですよ」
『そいつは光栄だな』
もちろん、茜さんともお話があるけれど…。でもこれだけは伝えておかなければならなかった。
「とりあえず、今日、何があっても茜さんを裏切らないようにして下さい」
『わかった』
この人は、一寸変わっているけれど信頼は出来そう…何となくわたしにはそう思えた。
…
……
………
ガチャ…。
受話器を置くと、ピーピーピーという警告音と一緒に、今までとは少しだけ左のメモリにパンチ穴が開けられたテレホンカードが排出される。手元に戻ってきたそれを、お財布のカード入れに押し込む。
駐車場に駐車中の日産チェリーに近寄ると助手席側のドアが開いた。
「携帯から掛けりゃよかったんじゃねえか…」
無理な体勢で、ドアを開けながら運転席の浩之さんはそう言った。
「途中で切れるのが嫌だったんですよ、この辺電波弱いし。それに、一寸内緒話もありましたし…」
「まあ、イイや。ほら、琴音ちゃん」
ホットコーヒーを投げて寄越した。
「熱ッ…」
まだまだ、熱いぐらいだった。
「いつ買ってきたんですか?」
「電話中に買ってきた」
緑色の公衆電話が設置されているのはコンビニエンスストアの前。勿論、車を停めてあるのはその駐車場。
「…すみません、浩之さん」
「琴音ちゃんなんか寒そうだったからな」
そう言えば三月とはいえ、少しばかり肌寒かった。少なくとも、まだ上着は必要だった。
「で、どうする? 中崎町だったらお昼過ぎには着いちまうけど」
なるたけ早く着きたかった。手遅れになる前に…
「それより早くは」
「道交法違反だぜ」
瞬間移動でも使えればいいのに…その時ほど自分のちからの不甲斐なさを呪ったことはなかった。
「なるたけ急いでは見るけどな」
あれから一週間ほど経って今日が決行日だった。
結局、話し合いはしいこさんの思惑通りに進んでしまったらしい。このまま見過ごしてしまったら、そして、もし最悪の結果に陥ってしまったら…そのことを考えるとわたしは居ても経っても居られなかった。簡単な御弁当を拵えると、浩之さんに無理にお願いして車を出して貰った。
わたしが行ったところで結果は為るようにしか鳴らないだろうけど…行かずにはいられなかった。
浩之さんはというと、勿論二つ返事で訳も聞かずに了解してくれた。でも、それじゃ申し訳ないので、道中車内で理由を話した。すると「琴音ちゃんは根っからの心配性だな…。それに言い出したら聞かないし。まっ、そんなとこもまとめて好きなんだけどな」と笑って答えてくれた。
…
……
………
一時間後
「運転変わりましょうか」
早朝から運転し通しで欠伸をしている浩之さんにそう言うと、
「いや、いい。」
「わたしの運転が信用できませんか。マニュアル車も運転できますって」
「そう言うんじゃなくて…コレって旧式だからパワステ付いてないからしんどいぜ」
そう言って浩之さんは苦笑した。
「パワステ…無しですか」
「いくら何でも、重ステは無理だろ」
「ちからを使えば何とかなります」
「やめてくれ。そのあと疲れて居眠り運転されたらこっちが堪らねえ。それに…」
二秒ほど脇見運転してわたしの方を向いた。
「そのともだちっていうのを止めたいんだろ…そのちからを使ってでも」
「ばれてましたか」
「当たり前だ。何年、琴音ちゃんの彼氏やってると思ってるんだよ」
そこまで理解してくれていたんだと思うと何となく嬉しく、照れ隠しに思わず彼の肩に抱きついていた。
「…あぶねぇって」
…
……
………
そして、お昼。
「ここってお花見で有名な公園だよな」
「はい」
見頃にはやや早い桜の花が、それでも儚い華やかさを知らしめている。三分咲きほどだろうか。
「本当に此処なんでしょうか」
「俺に聞く方が野暮ってもんだぜ」
さっき電話したときの茜さんの話だと、この公園なんだけど…広すぎる。
くぅ〜なんだか、お腹も減ってきた。
「琴音ちゃんお腹空いてるだろ」
「聞こえちゃいましたか」
「なんだか可愛いヤツが…」
…なんだか恥ずかしかった。
「そういう照れたところもまた可愛くて好きだ」
「こ、これお弁当です…」
ランチョンマットをしいて、持ってきたランチボックスを広げると、
「凄く豪勢だな…」
サンドイッチとお弁当には定番のおかず…。時間がなかったので、材料のほとんどはあり合わせに近い。わたしからすれば豪勢にはほど遠い出来だった…。
「そんなことないですよ…」
「ほら、このたこさんウインナーとか」
…
「そんな事言うんだったらこうです!」
わたしは、たこさんウインナーを箸で摘むとそのまま浩之さんの口の中に入れた。
「!」
もぐもぐもぐと咀嚼している時間がとても長く感じる。
「なんだかすげー恥ずかしいーんだけど…」
「わっ、わたしの方が…」
ばたばたと慌ててしまうわたし。かなり大胆なことやってしまったのかも知れない。
「すげー嬉しいんだけど…でもよ、そこまで慌てるか…初めてじゃないあるまいし…」
「で、でも…」
結局、バタバタやりながらお弁当に一時間を掛け…食べ終わった後そのまま、朝の疲れからか日が傾くまで寝入ってしまった。
(4)
「結局、見つからなかったな」
「そうですね」
「携帯にでも電話すれば良かったんじゃねえか」
「携帯掛けるとばれちゃうからって」
「それじゃ仕方ないな」
結局、何の収穫もなかった。
まあ、こんなこともあるんじゃないかな、なんておもいながら、大手コンビニに立ち寄ったとき…
「なんだか不釣り合いだなあのジムニー」
すれ違いで出ていったジムニーの運転席には、大きなリボンを付けた小さな女の子。
「浩之さん…! あれそうですよ」
「あれか!」
すぐ後ろを尾行しようと慌てて駐車場を出ようとすると、アクセルを吹かし気味のファミリアが割り込んできた。
「あぶねえなあ!」
窓から乗り出して、浩之さんが文句を言うと
「あっ、ごめんなさい…」
とロングヘアーにオレンジ色のリボンの女性が後部座席の身を乗り出して謝った。
「…ほら、詩子さん危ないってぇ」
「やっぱりあれです」
「よし!」
と一言だけ言うと、ファミリアとの間に一台いれた。
「なんだか、刑事ドラマの尾行っぽいですね」
「そのつもりなんだけどな」
国道のバイパスを小一時間ほど走ると…前のファミリアがウインカーを点滅させる。「左…です」
そのまま前の直進する二台。すでに間の一台はいない。
「止まりましたね」
「ああ」
そして、たどり着いた場所は…。
「これって…」
「いわゆる…なんだ、アレだよな」
…御休憩幾ら、ご宿泊幾らの場所つまりラブホテル街。用事もなく来る場所ではない。
「…遅かったみたいです」
「…いや、そうでもないみたいだぞ」
前のファミリアも、その前のジムニーも動こうとはしない。
そのうち、ファミリアが急発進しようとアクセルを吹かしたらしく、排気炎が吹き出す。
「詩子さんのファミリア、逃げようとしてます。どうしましょう」
「そうだな、今なら、琴音ちゃんのちからで一時的に何とか出来るかも…一寸細かいことイメージできるか?」
「やってみます! 教えてください!」
「それじゃまず…」
わたしは、浩之さんの指示通り、前のファミリアの一部に意識を集中する。
ぷすんっ!
ファミリアからのエグゾーストパイプから吹き出していた排気は不完全燃焼の物に変わり…、やがてエンストを起こした。ドライバー…恐らく詩子さん…が右往左往しているのが見える。
前のジムニーの方を見ると、ナビシート側のドアを忌々しそうに乱暴に閉めてファミリアに近寄ってくる。多分、折原さんなんだろう。朝の穏やかな悪戯小僧のような陽気な声の持ち主に対して何を仕掛けたら、あんな風になるのだろう。
ファミリアの助手席からは長いお下げの女性が出てくる。
「車出して下さい」
「いいのか」
「用事は済みましたから」
浩之さんがアクセルを吹かしたとき、一人だけこちらに気が付いて振り返った人がいた。さっきの長いお下げの人…。
その人はこちらにお辞儀をして…そして、お辞儀を終えると微笑んだ
「茜さん…」
何となくわたしはそんな気がして、そしてこちらもお辞儀を返し、その後で軽く手を振った。
(5)
『へえ、そうなんですか。それじゃあかねさん尾行に気が付いてたんですね』
「そうみたいです。詩子さんの方は“ゲーム”に夢中だったみたい」
『私も、その場に居合わせたかったです』
「わたしは…修羅場をもう御免です。でも…今度はみんなとまともにお会いしたいです」
『そうですね。今度はまともにオフ会でもやりたいですよね』
「栞、そろそろ出掛ける用意できたか」
『あっ、ごめんなさい!ことねさん、またチャットで…』
がちゃ☆
その一日の、事の顛末をしおりさんに報告し終えると、ふうっ〜と溜息をついた。
事の顛末と言っても、大半はわたしののろけ話みたいなものだったし、肝心な“ちから”を使った部分は適当に誤魔化したから、どれだけ伝わったかは知れないけれど、…それで良いんじゃないかっていう気がする。
あの翌日、折原さんから電話があった。
『茜がありがとうって伝えてくれって…それから、俺からも…』
後日、茜さんからメール届く。
あの一件がきっかけとなって、茜さんと浩平さんは曖昧な生活から一歩踏み出すことにしたらしい。驚いたのは、『不思議なちからをありがとう』…と一言添えてあったことだ。あかねさんはわたしの“ちから”に気付いたのだろうか。そのあと一切そのことに触れなかったから、ただ単に言葉の文だったのかも知れない。でも、何となく茜さんには知っていてもらいたい気もする。何故かはわからないけれど…
近々、披露宴ご招待のメールが舞い込んでくるんじゃないかと密かに期待している。
詩子さんは…相変わらずだし、みおさん…は、しばらく悄気ていたみたいだったがやっぱりもとに戻っている。
余談になるけれど、今、あの日産チェリーが何処にあるかというと…実は、いまわたしが住んでいる、このアパートの駐車場にあったりする。
そして、もちろん彼も…
〜劇終〜
栞「あとがき担当の美坂栞と」椋「藤林椋です」琴音「姫川琴音です」
栞「えーと、ですねえ…このお話は、『澪とドライブ』の琴音さんサイドの話です」
椋「これが出来上がったきっかけは、『完結編』の裏側を書きたくなったという、作者の個人的な事情からです」
栞「個人的な事情ですか…(苦笑)」
琴音「…実はあの後、わたしと浩之さんは…ごにょごにょごにょ(ご想像にお任せします)…だったんです」
栞・椋「ええ!?」
椋「ごにょごにょごにょ…ってことは、やっぱり…ピー(検閲削除)だったんですか!」
琴音「…はい(真っ赤)」
スタジオ騒然のまま、後書き終わり…
杏「逃げる気?」
ひぃぃぃ〜