『鶏鳴狗盗』

原案:司馬遷『史記』より

(1)

 中国は七雄争う乱世です。

 いわゆる春秋戦国の戦国時代です。

 戦国七雄が一国、斉の国はビン王が治世。ちなみに“ビン”の字はこれです。

 この王様、結構やり手で、近隣の内紛に乗じては攻め込んでいました。その中の一つが燕で歴とした戦国七雄の一つに数えられる列強なんですが、なんとその国を二年も占領下置いていました。でも、またそれは別のお話です。

「なんやっ! ウチの出番はないんかいっ!」注1

 ないです(キッパリ)

「ニッコリ笑みを浮かべて言うとは…栞も侮れないな」

「相沢君のお陰で、趙王様が板に付いたんじゃないの」注2

「…ていうか、前回は素でやってたぞ

 そんなこと言う人嫌いです!

 

 この時期、諸国には、“戦国四君”と呼ばれる実力者がいました。

 戦国四君とは、斉の孟嘗君、魏の信陵君、楚の春申君、趙の平原君をのことで、その春申君以外は、その国の公子か一門衆でした。彼らは、いずれも諸侯に匹敵するほどの実力を持ち合わせ、多数の食客(居候)を抱え、ピーク時にはそれぞれ数千人抱えていたとまで言い伝えられています。

 さて、斉国は孟嘗君。

 孟嘗君は謚号で、本名を田文といい、斉国が宰相田嬰の息子のなかで一番、機転が利きました。

 父親の田嬰は田文を家宰とし、食客を賄わせました。田文は、各地からの“客”を情報ソースと位置付け重要視していたため、とても大事にしました。その評判から、彼が家督を継ぎ薛の領主になる頃には、“食客三千”とまで言われるほど居候を抱える大所帯になっていました。

 孟嘗君が囲っていた食客はピンからキリまでいて、賢者・説客を多数抱えているかと思えば、

「うぐぅ…ボク盗人じゃないよう」

といったあゆさんや、

「雪ちゃん人使いが荒いんだよ…」注3

といったみさき先輩までいる始末です。

 家臣や、他の食客に諫められても、

『大丈夫なの。いつかきっと役に立つの〜』

 と何処吹く風で、お構いなしの来るもの拒まずでした。

 

(2)

 ある時、西の強国・秦の昭襄王が、是非とも招聘したいが為、斉王宛に陽君を人質差し出してきました。先にも、孟嘗君宛に直接使者が来てはいたのですが、蘇代に諫められて一度は取り止めましたが、さしもの孟嘗君も、今回ばかりはそうも行かなかったみたいです。なにしろ人質付きです。結局、斉王に説得されて、一族郎党を引き連れての入秦です。

「よくぞおいで下さった。政(まつりごと)など御指南してくれたまえ」

 今回も、秦王は昭襄王なので久瀬さんです。

 引き続き王様なので、生徒会長のときよりさらに偉そうです。

「美坂君も人のことは言えないだろう!」

 そんな事言う人嫌いですっ!

「取りあえず、お話を進めてね。上月さんやみさきたちが痺れ切らしてるから」

 …流石、ONEの良識派、深山雪見さんです。

「…まあ良いんだけどね」

 取りあえず、話を進めます。

「えー、孟嘗君を気に入った秦王は宰相に…って、この娘を宰相にするのは抵抗があるんだが…」 

『台本通り、話を進めるの!』 

 スケッチブックを盾に、一歩も引く構えを見せない澪さんです。久瀬さん、台本通り進めてください。

 なんだか渋々っていう感じで、澪さんを宰相に任じました。久瀬さん真面目にやって下さい!

 そんなわけで、なんとか、話が繋がったので次の場面行っちゃいますっ。

 ところが、秦王の側近に、孟嘗君は斉の王族だから、秦の利益より、斉の利益を優先させる。とは言え、このまま帰国させるのは不味いので、今のうちに暗殺してしまうべきだ、と言う者が現れました。

 そして、秦王もその意見に納得し、彼の滞在中の館を警備の名目で包囲させました。

 

(3)

「うぐぅ…包囲されたみたい」

『秦王に謀られたの。このままだと捕まるの』

「秦の法律は作らせた本人すら処刑された程厳しいんだよ…」

 包囲されたのに気が付いた孟嘗君陣営に緊張が走りました。

「それじゃあ最後の手段だな。幸姫っていう秦王のお気に入りに何とかして貰おう」

 側近の折原さんはそう言いうと、善は急げとばかりに、宵闇を駆け抜けて幸姫の元へ馬を走らせました。

 

「…で、天野か」

「…前回の仕打ちはあまりにも酷というものでしょう」注4

 幸姫役の美汐さんは、孟嘗君の側近折原さんに向かってそう言いました。

「それは“相沢祐一”と作者に言ってくれ」

「…似たようなものです」

 それは違うとおもいます。

 折原さんと祐一さんは別人です!

「それは置いておくとして…」

「真琴を連れてきて下さい」

「…確かに、狐なんだけどな…」注5

「宜しいですか?」

「…」

「宜しいですか?」

「…」

「宜しいですか?」

「…」

「宜しいですか?」

「分かった…」

半ば根負けした折原さんは、孟嘗君の元に急ぎました。

 

「…ということだ」

『珍しい妖狐なの。もう秦王に献上したからないの』

 とうんうん頭を抱え込んでいると、

「そう言えば…『困ったときに開けてくれ』と相沢から手紙を預かっているんだが…」

「うぐっ…なんだか悪い予感がするよ」

『開けて読んでなの』

「『この手紙を開封してるって事は、話も佳境なんだろうな。多分、天野から無理難題を押しつけられたはずだ』その通りだぞ」

 祐一さんなかなか侮れません。

「『困ったときには、そこの“うぐぅ、うぐぅ”言ってる奴だ。ああ見えて、食い逃げの達人。盗人役には最適だ』そう言えばゲーム本編ではそう言う設定だったな」

「ち、違うよ!! たい焼き頼んで、お金を払おうとしたら、丁度お金が無くて…」

 あゆさんがなんだかそわそわし出しました。

「それを日本語では、食い逃げとか、万引きとかいうんだぞ。これで、盗人役は決まったな」

「…うぐぅ、祐一君も浩平君も酷いよ」

『続きがあるの〜』

「えーと『もし、あゆが盗人役を拒んだら、たい焼き屋の親父か警察に突き出すと伝えてくれ』…だそうだが、どうする?」

 あゆさんはに拒否権はありませんでした。有無を言わさず、盗人役に抜擢され、その期待に応えました。それで、盗まれてきた真琴さんはというと…

「祐一! 憶えてなさいよ!」

 悪態を付きながら折原さんに連れられて、美汐さんの元へ向かいました。真琴さんには悪いですけど、演出担当の祐一さんは多分憶えていません。

「あうぅ〜貢ぎものぉ〜…」

 

 幸姫の在所。

「天野、これで取りなしてくれるんだろうな」

「これで、取りなさなければ、人として不出来というものでしょう」

「お名前は?」

「あう〜」

「お名前は?」

「あう〜」

「お名前は?」

「あう〜」

「お名前は?」

「まこと…。ってなにやらせるのよ、美汐!」

 と言いつつも、とても倖せそうなお二人です。

 

(4)

 約束通り、美汐さんの晩酌中の取りなしで、秦王の久瀬さんは孟嘗君追討は取り下げましたが、そんなものは一時的です。酒の上でのことは水物で当てになりません。

 もとより、孟嘗君もそのことは承知で

『館を引き払って逃げるの』

とばかりに慌ただしく一行は帰国の途に付きました。

 秦王はと言うと、当然のように追討令を出しましたが、既に屋敷を引き払った後でした。そして、討伐隊が慌ただしく街道を駆け出した頃、孟嘗君一行は、なんとか函谷関まで到達していました。

 しかし、到着したのは生憎の真夜中です。夜明けの時を告げる鶏が啼くまで関は開きません。

『困ったの。討伐隊が追いついてくるの』

「深山さんから手紙を預かってるんだが…」

『取りあえず読んでなの』

「『多分、切羽詰まっている頃だろうから要点だけ言うわね。声帯模写師の役はみさきにやってもらってね』だそうだ」

『お願いなの』

「深山さんが言うんだから間違いないだろうけど。みさき先輩、本当に大丈夫だろうな」

「大丈夫だよ! 雪ちゃんと特訓したからね!」

 半信半疑な、澪(孟嘗君)さんと折原さんを余所に、みさき先輩は自信満々で鶏の声を真似しました。

「くっくどぅーどぅー」

『って英語かいっ! なの〜』

 みさき先輩の声につられて、時報用の鶏達も一斉に啼き出しました。

 鶏達の鳴き声に関の門番も夜明けだと勘違いし、開門してしまいました。

『急いで抜けるの!』

 一行は食客の一人が偽造した通行手形を使って、まんまと函谷関を突破し、一目散に他国領へ逃亡したのでした。押っ取り刀で討伐隊が到着したのはそれから二刻(四時間)程も後の話。すでに一行が他国の領土に逃げ仰せた後でした。

 

鶏鳴狗盗

1.盗人や声帯模写師や偽造名人でも役に立ったことから、どんな才能でも何処かで役に立つ

2.大した才能を持ち合わせていない人

3.せこい策略で切り抜けたことから、小策を弄する者

 

(おまけ)

 実はこの話には後日談があります。

 孟嘗君一行が帰国途中の話です。

 趙を通過中の一行を見物していた趙人の春原さん。言うに事欠いて、孟嘗君に見てこう言ったのです。

「薛公(孟嘗君)ていうからもっと凄いのかと思ってたけど、ちびのお子様だよねえ〜」

 その一言は孟嘗君の逆鱗に触れてしまいました。

『みなごろしなの〜!』

 怒り狂った孟嘗君の号令一下、哀れ、その県は、春原さんもろとも孟嘗君一行の手にかかって壊滅させられてしまったという事です。

 ヘタレは災いの元ですよね。

〜劇終〜


注1:斉王(ビン王)は神尾晴子さんでしたが役自体が無くなりました(笑) 廉頗将軍の舞と同じパターン(苦笑) ていうか、最初は杏を予定して…ぐはっ!

 ちなみに、今回のナレーションは栞です(笑)

注2:予定では、趙王(恵文王)役は栞ではなく祐一でした。当初、栞は繆賢役の予定でしたが、宦官令ではあんまりなので…趙王とチェンジ。繆賢役は北川となりました。哀れ北川…(笑)

注3:いつものように、演劇部長の深山先輩にかり出されたようです(笑)

注4:前回、登場しなかった白起将軍が美汐でした(笑)

注5:原作では狐白裘といって、狐の脇毛の白い部分のみを使用して作った高級コートです。でも、鍵系で狐と言えば、やっぱり真琴なので…(笑) どっちかっていうと、このネタが書きたかったから題材を選んだような…


栞「栞です」

椋「椋です」

栞・椋「「クローンズでーす」」

栞「史記のパロディー第二弾です」

椋「今回は栞ちゃんがナレーションでしたけど、どうでしたか」

栞「楽しかったです!」

椋「ところで、孟嘗君役は二転三転したみたいですね」

栞「祐一さん→ことみちゃん→深山さん→澪さんでした」

椋「澪さん以外の三人では身長ネタが使えませんから…」

 

栞・椋「今宵は此処までにいたしとうございます」

 

 

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