『完璧』

原案:司馬遷、横山光輝『史記』より

(1)

 そもそもの発端は、楚の国の宝物“和氏の璧”がひょんな事から趙王の手に渡ったことから始まる。璧とは何かというと、玉(ぎょく)…今で言う翡翠で出来た宝環で、祭祀や儀礼に用いられたりする装飾品。ちなみに、これの環が元々一部欠けているのが、決(本当は王へん)といい、楚の軍師范増が、鴻門の会で覇王項羽に対して沛公暗殺を促すための小道具として使った小道具だ。

 ところでこの“和氏の璧”のただの宝物ではない。夏は冷房要らず、冬は暖房要らず、おまけに夜中に発光する省エネこの上ない代物。門外不出も伊達じゃなかったわけだ。

 さて、“和氏の璧”を趙の恵文王が手に入れたことを何処からか聞き付けたのが、時の秦王が昭襄王。この王様がまた、「人の物は俺の物」と、どこぞのガキ大将の様なはた迷惑な考えの持ち主。天下の名宝を何とかして手に入れようと思案した。そこで考えついたのが、秦領の一五城との交換だった。

 使者から親書を受け取った恵文王様。

 恵文王もそれほどお人好しではない。そこで朝廷で朝臣に諮ってみる事にした。

ところが…

「それはこまりましたねぇ」

「うぐぅ…秦王は信用できないよう」

「でも渡さないと非道い目に合わされるわね」

「…渡さないと攻め込まれる」

「あう〜肉まん」

「うにゅ〜。イチゴジャムならご飯三倍だお〜」

「アイスはバニラに限りますね」

 …とこれがまた、小田原評定で全く話にならなかった。

 そこで、業を煮やした恵文王は

「そんな事言う人たち嫌いですっ!」

 ととうとう拗ねてしまった。ていうか、最後の栞だろ…。

そこに、

「こんな時に打ってつけの人物知ってるんだけどな」

 そう話を持ちかけてきたのは、恵文王の寵臣で宦官令(宦官の長)の北川もとい、繆賢と言う人物。

 実はこれが、問題の“和氏の璧”を趙國で最初に入手した人物。折角手に入れた天下の名宝を、渡してなるものかと意地になり、恵文王の所望にもしらを切り通し、挙げ句の果てに、外出中に家捜しされ結局、恵文王取られちゃった人だな。

 …北川…ってとことん不幸な奴だ。

「オレの家臣の藺相如に任せたらどうだ」

「その藺相如っていうのは誰です」

「オレが、栞ちゃん…もとい趙王様に“和氏の璧”没収される前についた嘘で投獄されるのを恐れて、燕に亡命しようとしたとき…

『あははーっ、北川さん。もし今、燕の伝を頼って亡命しても切られちゃうのが落ちですよ〜。正直に栞ちゃんに謝った方が得策ですよ〜』

…と言って、引き留めてくれたんだ。だから、きっと倉田先輩もとい、藺相如なら何とかしてくれるぞ」

 栞もとい恵文王は少しばかり考えた。

「それじゃあ、その藺相如を呼んでください」

 と鶴の一声で決定。

「それと…、お姉ちゃん北川さんを連れていってくださいね」

「栞、案外言うようになったわね…」

 俺はある意味前からだとおもうぞ、香里。

「そうね」

「そんな事言う人嫌いですっ!」

 取りあえず、北川もとい繆賢は、香里に引きずられて退場していった。

 個人的には同情するぞ…色々と。

 成仏してくれよ( ̄人 ̄)

「オレはまだ死んでないっ!」

 そんな北川の叫びを余所に、程なく、恵文王の前に佐祐理さんもとい、藺相如が召し出されきた。

「藺相如さん。秦への使者をお願いできますか」

 と恵文王様。

「佐祐理で良ければ喜んでいってきますよ〜。秦王のいう十五城の割譲が約束通りなら璧は渡してきます。でも、秦王にその気がないようだったら壁を完うして帰国しますね〜」

 

(2)

 さて、佐祐理さん、もとい藺相如は、函谷関を超えて秦の都咸陽までやってきた。そして昭襄王に謁見した。

「倉田さん、和氏の璧なんかどうでもいいから、この際僕のところに来てくれませんか」

「あははーっ。お話違ってますよ〜。久瀬さん」

 久瀬、あんまり脱線していると舞の突っ込みが入るぞ。

「甘いな。今回の話には廉頗将軍は登場しなあい!」 

 どけしっ! 

 何処からともなく飛来する一冊の英和辞典。

 昭襄王久瀬、間一髪で回避する。

「君! 何をするんだ。僕は生徒会長…違った秦王だぞ!」

「あんた、会長だか、秦王だか知らないけど、とっとと話し進める!」

「お、お姉ちゃん…今回、私たちの話じゃないよ」

 …藤林杏恐るべし。っていいのか、別のゲームだぞ。

「はぇ〜、祐一さん今の方たちはいったい何だったんでしょう?」

 気にしないでくれ…。

 話を戻すぞ。って秦王の玉座が壊れてくるじゃん。

 北川手が空いてるんだったら、秦王の椅子予備と交換してくれ。さっきの攻撃で壊れたから。

「相沢、人使いが荒いな…」

 北川が代わりの椅子を持ってきて漸く本編に戻れる。

 おい、久瀬からだぞ!

「相沢君、君に“おい”呼ばわりされる覚えはないはずだが」

 …いいから早く先に進めてくれ。

「久瀬さん、また辞書が飛んできますよ〜」

「…」

…閑話休題…

 秦王久瀬は気を取り直して言った

「それで、趙王の使者というのは倉田さんかな」

「藺相如ですよ〜。趙王から和氏の璧を預かってきました〜」

「ほう、よく見えないな。苦しゅうないもそっと近こう」

 怪しい手つきの昭襄王久瀬。アレはあからさまにセクハラでは?

「久瀬さん。舞が消化器構えて睨んでますよ〜」

「!? 倉田さ…違った藺相如とやら、和氏の璧だけでいいです…」

 秦王久瀬、完全に萎縮しているな。

「余計なお世話だ。相沢君」

 藺相如から和氏の璧を受け取ると

「天下の逸品が手に入ったことだし、倉田さんが手に入らないのは目を瞑ろう」

といって、昭襄王はこれ見よがしに側室や侍女達に見せびらかす始末。

(要素通り、全く十五城割譲の話が出てくる気配を見せませんね〜。では、何とか策を講じて昭襄王から奪い璧を取り返しましょう)

 藺相如は、学年トップの頭脳をフル回転させて策を瞬時に練り上げた。

「あははーっ。実は、それには傷があるんですよ〜」

「何処にあるんですか」

「ほら、ここです〜」

 そう言うと、藺相如は昭襄王の手元から璧をすかさず奪い取った。

「倉田さん! 何をするんだね」

 いつもの久瀬からは想像できない程の怒りを見せる昭襄王。

「あはは〜っ! やっぱり秦王様は十五城の約束を反故にする気でしたね〜」

「何をいうんだ倉田さん!」

「趙王はこの議を重臣に諮られました、でも最初は、『秦は信用できないから城との交換には応じられない』と言う風に話がまとまりかけたんです」

 藺相如の表情はいつも通り穏やかだったが、その眼光は、鋭く昭襄王を見据えていった。

「でも佐祐理は、まさか大国の王である秦王様がよもや約束を違えることはないでしょうから、むしろ秦国との友好をこんな事のために失うのは莫迦ですよ〜と説得しました。そして、趙王は大国秦への敬意を払うために五日間沐浴斎戒してから佐祐理にたくされました」

「…」

「ところがどうですっ! 秦王様は手に取るやいなや、自慢の種にするだけで、城を渡す話はおろか、一国の使者に対する礼の態度すらみせませんでした」

「…」

「秦王様がそれで佐祐理を殺すというのなら、佐祐理は璧ごと柱に頭を打ち付けてここで自害します…」

 佐祐理さんは哀しげに言った。

「まっ、待ってくれ。倉田さん」

 慌てた、秦王は臣下に地図を持ってこさせ、取り繕うように領土との交換交渉を始めた。それが、出任せでの芝居あると見抜いた藺相如は、

「和氏の璧は天下の至宝。趙王ですら手放す際にには沐浴斎戒しました。だから、秦王様も同じようにされるのが道理だと思いますよ〜」

「…もっともだ」

 昭襄王は、藺相如の意見に納得し、五日間の沐浴斎戒の儀を執り行うことにした。そして、藺相如には、その間国賓としての最高のもてなしが成されることになった。

 

(3)

 その晩、藺相如の宿舎の書斎に、一人の従者が呼び出された。

「漸く、俺の出番みたいだな、佐祐理さん」

「はぇ〜。従者は祐一さんですか〜」

「栞が間際になって駄々をこねたから、趙王を替わってきた」

「栞ちゃんまた、拗ねますよ」

「…それも困ったもんだな。でもそこがまた可愛いんだけど」

「ところで…祐一さんはナレーターじゃなかったんですか」

「だから、ナレーションないだろ」

「そうすえばそうですね〜」

「それは兎も角、俺に用事があったんじゃないのか」

「そうでした〜。忘れてました。佐祐理は莫迦な娘ですから」

 ゴソゴソゴソ…

「これなんですけど…趙まで持って帰って下さいね〜」

「“和氏の璧”だな。本当にいいのか…って、俺が持って帰らなきゃ話が進まないんだったな」

「そうですよ」

「佐祐理さんはいいのか」

「佐祐理のことを気遣ってくれるんですね。でも、佐祐理は大丈夫です。それに、佐祐理までが居なくなったら、祐一さんにも追っ手がかかって迷惑がかかりますよ〜」

「分かった」

 藺相如の従者…って言っても俺か…は、旅人に変装すると裏街道を趙に向けて姿を消した。

(4)

 そして約束の五日後…。

 身を清めた秦王久瀬は、取りうる最高の礼でもって藺相如を迎え入れることになった。

 しかし…。

「あははーっ。和氏の璧はもう手元にないですよ〜」

「なにっ!」

 余りの怒りに、昭襄王の顔が一気に沸点を突破する。

「貴国は繆公以来約束を守った王様の話を聴いたことがないですから、このまま渡したら佐祐理は、趙王の信頼を裏切ることになってしまいますから、祐一さんに持って帰ってもらったんですよ〜」

「倉田さん、よくも僕を騙しましたね!」

「貴国から改めて十五城の印を携えた使者を趙に向けて出してもらえれば、敢えて敵に回してまで璧出し惜しみはしませんよ〜」

 佐祐理さんは余裕の笑みで大芝居を打つ。

「久瀬さんのを欺いた佐祐理はもとより命を捨てる覚悟ですから、たとえこの場で取り押さえられて、死罪を被っても文句は言いません」

 昭襄王の重臣達はいきり立っていたが、昭襄王は群臣達を押しとどめるとこういったのだった。

「たとえ倉田さん…もとい藺相如を処刑したとしても璧が手に入らないばかりか、趙を敵に回してしまうことだろう。それよりも寧ろ、手厚くもてなして帰国させてやる方が有意義だと思う」

 こうして、藺相如は今まで以上に手厚い持てなしを受けて、無事に帰国することが出来た。さて、十五城と璧の件がその後どうなったかというと、秦は十五城を割譲しない代わりに、趙も和氏の璧を渡さないという至極当たり前の結論に決着した。

 その後、藺相如がどうなったかというと…

「璧を無事持ち帰って来たので、上大夫にとりたてますね」

「はえ〜。上大夫にとりたてられちゃいました〜」

 

 璧を完う(へきをまっとう)して無事に帰国した藺相如の故事に準え、後に、完全無欠の状態、事柄の事を完璧(かんぺき)と言うようになったという。

 

廉頗将軍(舞)「…私の出番がない」

 

 続く?


栞「美坂栞です」

椋「藤林椋です」

栞・椋「二人合わせてクローンズでーす」

 今日は、杏も香里も出払っているらしいな。

栞「作者がなんかいってますけど、気にせず続けます」

椋「このお話実は、『刎頸の交わり』の前半分にあたります。当初の予定では、全部いっぺんに書こうと企てていたようなんですけど…」

栞「挫折しましたか。ありがちですね。それで、廉頗将軍役の舞さんの出番がないんですね」

椋「ははは…」

栞「それで続きは?」

椋「気が向いたら書くそうです」

 げしっ! が、がぉ…

七瀬「作者、鬱を理由に〜」

椋「な、…なんだか、騒がしくなってきたので」

栞・椋「またの機会に〜」

 

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