『あの日の雪』

「…私、笑っていられましたか」

(1)

 あれから、何度も中庭に足を運んだ。

 けれど、それ以来再びその少女に会うこともなく、新しい季節はやって来た。

 …クラス替え。

 俺は、あるはずのない名前を捜す。だけど見つけることが出来ずに妙に納得した気分になった。

 あれから変化があった。

 一つは、窓際の席を望まず黒板の前の特等席をずっと指定席にしてきた。その効果もあってか、模試の成績で予想以上の結果が出せた。

「これなら、六大学どころか国立だって行けるぞ」

 担任は嬉しそうにそう言った。

 一つは、バイトを始めたこと。 

 この街を離れたかったから。あの少女と過ごした儚い日々を想い出に変えたかったから。だから、志望大学も実家近くに決めていた。

 そして、もう一つ大きく変わったことは、美坂香里がこの街から居なくなったこと。

 彼女もまた、俺と同じ思いだったのだろう。彼女の引っ越しの一月後、一通の葉書が届いてそれっきり音信不通となった。

 

…そして

(2)

 あれから二十年ばかり月日が流れた。

 その間に医療も進歩し、不治の病とされてきた幾つかの疾患に対する特効薬が開発されていた。それによって、完治した患者の症例もあり、あの雪の街で出逢った少女の症例にも有効だった。それも劇的に…。

 …何もかもが遅すぎた様にも思えた。

 ただ俺は諦めなかった。

 むしろ俺は、この時を待っていた。

 異端者と呼ばれながらも自論を確立していた俺は、大学側からは若手の教授として受け入れられ、小さいながらも研究施設を提供される。大学側にしてみれば、逃げられるよりは恩を売って飼い殺しにする方がいいと判断したんだろう。むしろ、それは俺にとって有り難かった。俺は、高校以来の親友、北川を呼び出した。

 今では北川も、ベンチャー業界でのカリスマと呼ばれるほどだったし、それ以前に、世界十指に入る一流技術者の中の一人だった。俺が、打ち明けると、

「資金なんて俺が何とかしてやるさ。それより、何でもっと早く連絡くれなかったんだ」

 そう言うと、少年のようにニヤリと笑い、二つ返事で引き受けてくれた。

 それからが忙しかった。

 それからの半年は、俺と北川はほとんど不眠不休のフル操業たった。

 完成品した夜、缶ビールを片手に、感慨深げに見ていた俺に北川が言う。

「なあ、相沢。本当に実行するのか」

「そのつもりだ。今なら、政府の法制度も確立していない。やるなら今しかないんだ!」

「だったら、オレも最後までつき合わせて貰うぞ。おまえが嫌だって言ってもな」

「すまない」

「しかしなぁ、北川」

「前から訊こうと思ってたんだが…、どうやってアレを手に入れてきたんだ?」

 俺はプラットホームに使用したマシンのことを聞いた。

「あるところの倉庫に眠ってたやつを買い取った」

「高くなかったか?」

「それほどのもんじゃないさ」

「車検は?」

「車検は裏から手を回した。なに、偉いさんに鼻薬嗅がせればすぐだ」

「…秋子さんも凄いが、おまえもなかなかやるな。」

 北川の趣味を激しく反映させた結果らしい。

「だけど、2シーターだとお前乗れないぞ」

「人の恋路を邪魔するほど野暮じゃないさ」

「その言葉、額面通り有り難く受け取っておく」

 試運転当日。

 感慨深げに見送る北川を余所に、俺は、マシンのドラーバーズシートに収まると、キーを差し込む。

 特設したカーナビにも使えるメインシステムのOSを起動させると、必要事項をタッチパネル上のキーボードで入力した。理論上全開運転で行って還って暫く走れるだけの蓄電量は確保されていた。家庭用電源から充電できないのが難点だったが、最近増えてきた、プロパン燃料車や電気自動車に対応して、専用のP/Eスタンドも昔のガソリンスタンド並にある。金さえ払えば、いくらでも充電できる。こちらに戻って来れればだが…。大体、戻って来れなければそれまでだ。それより、戻ってこられなければ洒落にならない。

 タイヤはスタッドレス。こちらは余り雪なんか降らないから、販売店の店員に散々言われたけれど、…やっぱりあっちじゃ必需品だしな。

 一通り、メニュー確認するととある数字を打ち込んで、マシンを発進させた。

 

(3)

 そして光りのトンネルを抜けると、更に白い世界がヘッドライトにと街灯照明に照らされていた。

 『1999/02/01 00:05』

 液晶画面が表示した時刻だった。

 少しばかり遅刻か?

 

 噴水のある公園。若い男女がうずくまっていた。

 取りあえず、男の方は、放って置いても問題はない。見かけ以上にタフに出来ているのを知っていたし、ストールが乗せられているし…。

 問題は…立ち去ろうとして倒れたであろう少女の方だ。

「おいっ! しっかりしろ栞!」

 俺は、冷え切ったその頬をペシペシと叩いた。

「…ゆ…ういちさん」

「おう、ゆういちさんだぞ」

 安心したように、俺の腕の中に倒れ込んだ。当然まだ息はある。俺が、暖房全開の車内に押し込んでナビシートに、シートベルトで固定したとき、

「待ちなさいよ!」

 と怒りを露わにした叫びを聴いた。

「栞を、妹をどうするつもり!」

 香里だった。

「どうもしないさ。ただ救いたいだけだよ」

「嘘仰いっ! 大学病院の偉い先生だって匙を投げたのよ!」

 赤く充血した瞳は潤んでいた。熱いものが頬を伝っている。

「嘘じゃないさ。嘘だったら、俺はこんなところにいない」

「知らない人なんて、信じられるわけ訳じゃない…」

「確かに、現時点での医療技術じゃダメだと思う。でもな、何年も経った今、状況は変化したんだよ。分かってくれとは言わない…でも信じてくれないか、香里」

「えっ、今なんて…」

「一刻を争うんだ。説明してる暇なんてない。ただ、そこの莫迦だけ何とかしてやってくれ。じゃないとそれこそ取り返しが付かなくなっちまう」

「え? もしかして、あなた…」

 それ以降の台詞は聞き取り無かった。

 何故なら、既にその時には、別の時間、別の場所にいたのだから…。

 

(4)

 彼女が目覚めたのはそれから三日後のことだった。

 彼女の視界に最初に入ったのは恐らく、彼女を側でずっと見守っていたであろう、未だ少年期の面影を残す青年…俺達は本気で青年と思っていた…だった。

「ゆう…いちさん?」

「ああ、祐一さんだ。よく分かったな」

 少女は安心したように俺の手をしっかり握ってきた。

「なあ、オレ外しても良いか」

 北川がバツが悪そうにそう言って病室から出ていった。彼なりに気を利かせてくれたのだろう。

「えっ…。どなたですか、あの人は…」

「北川」

 漸く、辺りに気が付いた。広がった彼女の視界に入ってきた者は、見知らぬ医師と看護師。そして、少しばかり年輪を重ねたであろう俺。

「ここは…? どこですか」

「病院だ。但し二十年後のな。詳しいことは暫くして落ち着いてから話すよ。時間だけはあるからな。だから、今日はこれで我慢してくれ」

 俺は、ポケットからこの時のために用意していたものを無造作にとりだした。

「誕生日おめでとう」

 その象牙のように白く、そして折れそうな程細いその指に、そのリングをはめ込んだ。

 窓の外には、今降り出したばかりの粉雪がちらついている。まるで、これからの時間を祝福するように…。


栞「美坂栞です」椋「藤林椋です」

栞・椋「この後、『わたしとわたし〜』このあとすぐ!」

栞「どっちが佐久間レイさん(ロッテ)役で、どっちが鶴ひろみさん(ルイーゼ)役ですか?」

 …をいをい

椋「…どっちかって言うと、私とお姉ちゃんの方が合ってるんじゃ…」 

 …それいっちゃ元も子もないし…

椋「と…取りあえず、解説行きます」

栞「今回は『時間物』です。前にもやりましたよね」

 はい。『あまやどり』の事ですね。でもどっちかっていったら、あれは偶発的な出会いでしょ。

椋「そう言えば、今回は積極的に干渉してます。何か心境の変化でも…」

 いえ、突発的な物です。大体、真夏真冬の話書いてますし…

栞「えう〜。そう言うものは、私の誕生日用に書いてください!」

 …善処します。

椋「ところで、あのタイムマシン(仮)ってやっぱり、デロ○アン(仮名)なんですか?」

 微妙にヤヴァイので、『夢のスーパーマシン、童夢零』ってことで…

栞「童夢零って…公道走れないじゃないですかっ! それより、『童夢零』知ってる時点で歳がばれませんか」

 公道の件は、秋子さんバリの北川マジックで何とかしたんでしょう。年齢の件は諦めてます…

 ところで、栞ちゃん…一体何歳?

栞「そんな事言う人嫌いです!」

 この後、飛来した無数の辞書に生き埋めにされ、メリケンサック付きの鉄拳制裁を受けたのは言うまでもない。

 

 ご意見・ご感想をBBSメールBOXにてお待ちしております。