おはよう、渚。

 そして、見捨てられた星へようこそ……

 目覚めたおまえに少しばかり伝えたいことがある。
 これは、少しばかり遅すぎるかも知れねえが、俺と汐からのとっておきのそして最後の誕生日プレゼントだ。と言ってもやったのは殆ど汐なんだがな。
  
 このメッセージを聞いているなら勿論成功していることだろう。
 不老不治の完全体に生まれ変わったおまえは、もうどんな病気に怯えることもねえからな。
 
 渚にとってまず、最初に幸運だったのは、早苗さんの知り合いに裏でマッドな事をしている病院にある施設をが隠されていたことだな。
 コールドスリープって聞いたことがあるだろ?
 そう、『夏への扉』なんかに出てくるSFの定番だな。
 実は、そこの院長が恒星間航行(っていってたかな)にも堪えられるレベルの実用技術を隠し持っていたことだ。渚が汐を産んだ後、意識不明で今の技術じゃ助かる見込みはなかったけど、確かに息があった。そして、早苗さんの提案でオッサンと俺は、そのコールド……何とかに一縷の望みを掛けたわけだ。

 次の幸運は、ニューロコンピュータの登場だ。
 開発したのは一ノ瀬ことみっていって名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?
 うちの高校にいた天才だな。名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃねえか?
 ついでにそいつは、とんでもない物を開発した。
 それは、その機械の中に人の意識情報と遺伝子情報を蓄えることだったんだ。
 
 その被験者として名乗り出たのが汐だ。
 だから、そこのコンピュータの中には汐が居る。
 汐は当時遺伝子治療の研究者で未来を嘱望されていた。なんで汐がそんな物になったか分かるか?
 
『ママに会いたい』一心からだったんだぜ。 
 だから俺もオッサンも汐の決意を止めることは出来なかった。
 そこからは汐の話の受け売りだ。

 汐は取り込まれてから、遺伝子治療よりもクローン再生の方が手っ取り早いと考えた。まず、例のコンピュータにおまえの情報を全て取り込む。そのあと人クローンの研究を始めたんだ。
 
 倫理観とか、法律とか資金はどうにでもなった。
 なにしろそんなもんは結局建前にし過ぎなかったんだな。そんな事言っていた有識者や政治家、法律家がその舌の根が渇くよりも前に、自らの為に資金援助してくれたよ。開発した技術を中途のままフィードバックすれば良かった。あとは彼らか彼ら用意した誰かがモルモットになってくれる。
 
 軌道エレベータが建造されて、本格的な宇宙植民が始まり、恒星間移民が後押しになった。汐の再生技術は重宝だからな。なにしろ、データをバンクさえ出来れば、後の搭載量コストが全部燃料に回せるんだからな。もっとも、連中に与えたのはオリジナルの再生技術だけらしいけどな。 

 汐が言うには宇宙移民にはその程度で十分なんだそうだ。
 汐はそこから得られた情報を元に更に研究を進めてようやく完全体を作る基礎技術を開発したらしい。本当は汐も俺も、オリジナルの方が良かったんだけど、どうせなら、渚のためには初めからもっと健康な体にって思ったしな。だからオリジナルの遺伝子情報から発病の原因の不正遺伝子を修正したり、消費した分の細胞分裂のチケットを水増したり再生したりと色々面倒な操作をしている。そのデータをとある方法で合成して受精卵の核と植え替えるんだ。詳しく話せばそれだけ永く為るんだけどな。まあ、今度は時間だけはたっぷりある。汐からあとでゆっくり教えて貰ってくれ。……でその成功した唯一の完全体の渚におまえのデータを写すした準備が出来上がった。それが五百年ほど前、つまり今の話になる。丁度、人類がこの星を完全に見限った頃の話だ。

 
 その時点で八十を越えていた俺に対して汐は渚と同じようにデータとして再生を待つことを奨めた。まあ、そんなわけだから、どこかに俺のデータがあるだろうから、思い出したら再生してやってくれ。
 
 食料は幾らでも生産が利くから飢えることもないだろう。
 ただ渚は、俺や汐やオッサン達のしたことを恨むかも知れないねぇな。
 そんな未来なんか欲しくないかも知れない
 でも、少しは分かって貰いてえよな。俺や汐の気持ちも。

 ……
 
「おはようママ。よく眠れた?」
 少女の声で問い掛けてくる。
 汐。わたしのむすめ……
 目の前の少女は何処か彼に似ている。
 でもそれは、彼が残した映像が裏付ける様に実体はないフォログラフ。多分どこか別の場所に人でない本体があるのだろう。

 目の前に用意されていた姿見には彼にて会った頃のわたしが居る。
 わたしは何も身につけていない素肌の上から、取りあえずそこに用意してあったガウンのような物を羽織った。
 
 本当はこんな奇跡など欲しくはなかった。
 わたしが欲しかったものは、たとえ一匙でもいい、朋也くんや汐、父母そして彼の父……みんなと一緒に過ごすささやかな幸せだった。
 けれど、みんながくれた奇跡は、もう取り返しのつかない現実とティーカップ半分の悪夢でしかないように思えた……
 
 でも、これを与えてくれたのは私にとって掛け替えのない人々だ。
 これを無碍に拒絶することは今のわたしには出来ない。

 でも、希望がないわけではない。
 少なくともどこかに、必ず彼がデータとして眠っているのだから。
 そして、彼が再生されるまでの間、汐と二人でこの奇跡の代償のについて語りあって過ごそう……

 少なくとも時間だけは今までの何倍もあるのだから……
 そしてわたしは呼びかけに答える。




「おはよう、しおちゃん。はじめまして、わたしは渚。あなたのママです……」


琴音「こんにちは姫川琴音です」

どうも今日は。今回は栞&椋のクローンユニットじゃないんですね。

琴音「あ、いえ。お二人は花粉症なのでわたしが代役です」

あっ、なるほどね。そう言えば、ラバックの方の解説もONE茜シナリオトリオだったよな……

琴音「花粉症対策はしっかりして下さいね。それでは解説です」

では、琴音ちゃんよろしく。

琴音「えーとですね、これは元々、Kanonコンペ用に書いていたネタの転用だそうですね」

まあ、そんなとこです。あっちは途中で頓挫して、『誰的憂鬱』に切り替えましたからね。どちらにせよ、ぼろくそでしたけど……

琴音「SFは好き嫌いがあるんですよね。わたしは安易にファンタジーに走らない理詰めな展開も好きですけど」

それはどうも。琴音ちゃんにそう言われるとホッとするよ。

琴音「なにしろ、わたしの存在自体がSFですから(笑)」

……そう言うことか

琴音「それにしあわせのかたちって色々あると思うんですよ。たとえどうしようもなくダークな展開でも、それはそれでお話としてはなりたちますから」

……切実だなぁ

琴音「それでは、また機会があったら呼んでくださいね」

うい!