〜Assumption, operation, construction〜
(仮定、演算、構築)
そこにある存在が全て現実とは限らない
そこにある物全てが真実とは限らない
そこにある時間に確実など何もないのだから……
え…えっと…
あ、あの…これ
私は、遅刻してきた彼に今日HRで配布されたプリントを手渡す……
ラブレターかとか、果たし状かとか……いろいろからかわれるのはいつもの通りの日常茶飯事だった。……でも、
今日は何か違う。
……違うのは私の方の筈……だ。
……何だったろう。
?ラブレター
未検索……未検索……
『……そして……私は……るの』
……聲がきこえる
だれの……こえ
「……とみ」
自己紹介だ。目の前にいる少女のもの。ツインテールをボンボンで止めている。
「ひらがな三文字で『ことみ』。呼ぶときは『ことみちゃん』」
そう言えば、A組で学年一の秀才がいた。たしか、一ノ瀬ことみって言った。岡崎くんが連れてきたの子がその子……。
触覚みたいな癖毛の少女。
渚ちゃんと言った。なんだか気が合う。
岡崎くんと渚ちゃんとお姉ちゃんと……そしてお姉ちゃん
どこかの空き教室
……えんげき……
そう演劇部……。
元からあった小道具で遊ぶことみちゃんなぎさちゃん、私……
お姉ちゃんと岡崎くんはそれを疲れたようにそれでも、優しく見守って……
? 魔法少女
……検索 検索 検索……
『……の……中で……いえんに……思……うするの』
……響くもの
ことみちゃんが譲ってもらったもの
とても上手いとは言えないけれど、それでも皆は温かく見守る。
?……バイオリン
検索 検索 検索……
彼の心は……彼女のものだった。
昔からそうだったのだ……きっと……
それを彼が忘れていただけ……暗闇に閉じ込めていただけ
私は……初めからすでに負けていたんだろう。
その再会が勝負にすらさせてくれなかったのだろう……
……思考する。
かき集めたデータの中で再構築する記憶達。
何時からそうやっているのかもしれない心の闇の中で模索する……思考する……
……データ達
?……データ
そう……データ
「椋ちゃんには伝えておくの。これは次世代コンピュータ。従来のノイマン式コンピュータとは全く異なった概念で創られたの」
自宅に私を呼びだしたことみちゃんはその地下室を占領する大型で箱状物体数機で形成されたそれをを指していった。これは彼女の研究成果の一つだ。
静かに唸る機械は、まさしく思考するためだけに構築された物だ。
ことみちゃんは、一心不乱にその機械の入力装置から伸びるコードの先の電極を自分のあちこちに繋ぎ始める。
「ことみちゃん?」
「見届けて欲しいの」
「みとどける?」
彼女の言っている意味が一瞬分からなかった。
「これがスイッチ。そして、これは人の意思を取り込んで作動するの」
「取り込まれた意思は、そのなかで永遠に思考するの」
……?
「そして私はその中で永遠に思考するの」
彼女は静かに言った……
「それじゃ、岡崎くんや残されたみんなはどうするの」
「だから、椋ちゃんにお願いするの。椋ちゃんは朋也くんときっとお似合いになれるの」
……理不尽な言葉だった
それじゃあまるでおこぼれを預かるようなものだ。
それよりも、ことみちゃんのやろうとしていることは……
「勝ち逃げは許さないっ!」
私は、ことみちやんから電極を引き剥がして、ことみちゃんと同じように自分の身体に張り付ける。そして、ことみちゃんがスイッチと言った端末上のキーを押した。
永遠とも一瞬ともとれる時間。
ニューロの中のネットワークに散らばる私の意思は思考を繰り返す。
果たして、私……というものがそもそも、人として存在していたのか……
……また数単位過ぎる
並列ネットワーク上に幾らでも散らばるデータを組み合わせ演算する。
無限とも一秒以下ともとれる時間の中で……
再構築される日常……
そもそも日常とは何だろう……
現実とは何だろう……
時間とは何だろう……
演算は概念ですら無意味な物だと告げる
……時間すら無意味
……思考……思考……思考……
そこに何故気が付かなかったのか……
今の私なら、容易に現実の過去に干渉することが可能だ。
それならば、あの時に戻って……
……プリント
そう、本来渡そうとした物はプリント何かじゃなくて……
……
くだらない感傷だ。
干渉などという考えを捨てた私は、もう一度演算する。
仮定……演算……構築、仮定……演算……構築、仮定……演算……構築
その繰り返しの末行き着いた結論。
至極単純なことだった。
そこにある存在が全て現実とは限らない
そこにある物全てが真実とは限らない
そこにある時間に確実など何もない
故に、全てが「虚構」ならば「真実」を捏造してしまえばいい
その方が面倒な手順を踏むよりずっと楽だ。そこ此処に散らばるデータの海から必要な物をかき集めで私だけの「彼」を創ることが出来る。そうしてしまえばいいのだ。そうすれば彼とずっと一緒にいられる。
私の中でかつて「藤林椋」だった部分がそう答えた。
そう……時間だけはたっぷりとあるのだ。
そして私はネットワークの中からデータ収拾しながら演算を繰り返す。
……そう、膨大なデータの中から私だけの「岡崎朋也」を構築する為に……
〜了〜